牢の中で書いたサド・・・・・・(2)

『諸君!』昭和58年(1983年)2月号:「家畜人ヤプー」事件 第三弾!沼正三からの手紙

ただどれほど脳中で建設した空想の大城府も、人に伝える筆なしには不充分になってしまうことは勿論で、私としてもできるだけそこをうまくかきたいとは思いますが、この点でははじめからある程度以上のレヴェルを狙うことはあきらめているわけです。これに反し、想そのものでは、今迄誰もまだこういうどんな空想的生物も存在可能な場面(生物科学の発達した二干年後の世界)を書いていませんから、思うざま翼をのばして、たとえすじ書だけに終るように思えても、想だけは全部盛り込みたいと願っているわけです。サドは「百二十日」を牢屋の中で紙に制限をうけつつ書きつずったというのですが、私がヤプーをかくのも、ある意味では牢屋の中に等しい環境でこわごわかいているのです。サドがすじ書きだけでもと書きなぐっていった気持が、よく分るように思います。そんな時サドが技法など忘れていたと同じように、私も想だけでも何とか発表してしまいたいという気持になります>

『ヤプー』の中で私が書こうとしているのは技ではない想なのだ---沼正三が『ヤプー』にかける意気ごみが、行間のすみずみにまでにじんでいるではないか。この手紙の主が『家畜人ヤプー』の作者ではないなどと、どうしていえようか。

ところが、私と文通していた「沼正三」は『ヤプー』の作者ではない、そうおっしゃる不思議な人物がいるのだ。ほかでもない、天野哲夫君である。

・・・次号更新【『諸君!』昭和58年(1983年)2月号:「家畜人ヤプー」事件 第三弾!沼正三からの手紙:森下小太郎・・・連載41】に続く