プロデュース(康芳夫)
ノストラダムス(原作)
ヒトラー(演出)
川尻徹(著)精神科医 川尻徹
もう一人の影武者(ダブル)とは、いったい誰か(1)
「ところで先生、さっきの写真鑑定では、後期になってもう一人のダブルのヒトラーが現われてきましたね。背の高い、長頭で表情の弱いヒトラーというのが・・・・・・。そっちのダブルは誰だったのですか」
「ふむ」
博士は、ちょっと間を置いた。
「・・・・・・これは、ノストラダムスの予言から私が推理したので、いまのところ証拠も何もないのだが、私としてはアロイスニ世の息子の一人だと思っている」
中田は、あわただしく記憶をまさぐった。
「アロイスの息子・・・・・・?だとすると、実体ヒトラーの甥に当たるわけですね。確かアロイスはブリジット・ダウニングという女性と結婚して、ウィリアム・パトリックという息子をもうけていますが、彼がそうだというわけですか」
「いや、ウィリアム・パトリックはわりとしっかりとした履歴が辿れるんだ。彼はイギリスにいて、ヒトラーが権力を握ると、ベルリンの叔父のもとを訪ねてうまい汁を吸おうとしたりしたので、実体に嫌われている。戦後アメリカに渡ったことも分かっている。彼ではないのだ」
博士は、机の上の紙に簡単な家系図を描いてみせた(表2)。
表2−−−アロイス・ヒトラー二世の家系図
「アロイスニ世は、早い時期に結婚していたことが分かっている。それから、後に重婚罪で服役していると言ったろう。とすると、最初の妻と、ダブリンで結婚したブリジッドという妻とのほかに、事実上の婚姻生活をもった、もう一人の女性がいたことになるな」
その家系図は、アロイス二世を中心にして三本の線が延び、それぞれが女性と繋がった形になった。
「この最初の妻はユダヤ系だと思われるんだが、彼女との間に、どうやら男の子をもうけたらしい。この子を仮にアロイス三世と呼ぶことにするが、彼のことは、まったく分かっていないのだよ」
「そうすると、アロイスニ世が別の妻に生ませた息子が、ヒトラーの、もう一人のダブルに起用されたというんですか?」
またまた意表をつく川尻博士の推理である。
・・・・・・・・・次号更新【もう一人の影武者(ダブル)とは、いったい誰か(2)】に続く