都市出版社版『家畜人ヤプー』(1970年発行)

私自身の心憶えのためも兼ねて、署名入りの批評文を挙げておこう:家畜人ヤプー普及版(都市出版社)より・・・9

私自身の心憶えのためも兼ねて、署名入りの批評文を挙げておこう。安東泉(血と薔薇)、奥野健男(初版本解説)、金井美恵子(同上)の三氏は別として、初版本刊行後のものを順序不定で並べると、磯田光一(東京新聞)、福島正実(読書人)、平岡正明(読書人、週刊言論、東京二五時)、中田耕治(図書新聞、潮)、石川喬司(SFマガジン、宝石)、なだいなだ(朝日ジャーナル)、秦恒平(読書新聞)、倉橋由美子(都市)、中井英夫(映画芸術)、森下高茂(風俗奇譚)、種村季弘(現代詩手帖)、高橋康也(海)、渡辺格(科学朝日)の諸氏の十数篇があり、さらに奥野健男氏の手になると思われる『婦人公論』誌上の紹介文と、『潮』誌の三島由紀夫・寺山修司両氏の対談および『小説とは何か』(《波》)における三島氏の推輓とを、右に加えて算えることができよう(無署名ないし、匿名の紹介や言及となれば、幾つかの週刊誌、『オー』誌、『ユリイカ』誌、『批評文学』誌など、枚挙に遑ないほどである)。

嬉しくも驚かされたのは、これらの批評中、私から見れば、まことに過褒な内容のものもあったことである。作品は作者の手を離れれば一人立ちするものと、理窟としてはわかっていても、途惑わずにはいられなかった。化粧なしでは人交わりならぬ身と信じて垂れ籠めて暮して来た醜女が、「世の中変った。もうその顔でも後ろ指差されまい」と聞かされ、こわごわ素顔で歩いてみた。なんと、後ろ指どころか、「その顔イカス」と声掛ける男が一人ならずいたとしたら、喜ぶ前に仰天するに違いあるまい。

・・・次号更新に続く