「家畜人ヤプー」贓物譚(ぞうぶつたん):『潮』昭和58年(1983年)1月号

「家畜人ヤプー完結版(ミリオン出版)」より---沼正三・・・3

日米構造協議の米高官は「マッカーサーのやり残した改革だ」と語った。不戦憲法はそのマッカーサーが押しつけたことも忘れて、紛争への対応が悪い、上納金が少ないと叱りつける米国にNOと言えない日本だが、半世紀前の空襲の恐怖や原爆の戦慄を肌身で憶えていない若い世代も、湾岸戦争での米英軍の圧倒的な勝利を見せつけられ、<偉大な>アングロサクソン民族が本気になったときの凄さを、強い<人類正義の旗手>の恐ろしさを、ひしひしと感じたのではないだろうか。

とまれ、地球の支配権は依然彼ら白人種の手に握られているし、彼らから見た私たちは遂に異質なのだ。今の地球的規模での黄禍論議に返す言葉を持たぬまま、浮薄な金力に浮かれていては、驕る者久しからず。<金満国>日本の増上慢が白人諸国の怒りに触れ、報復され、再び転落衰亡への道を歩むことにならぬよう祈るばかりだ。現に日本は湾岸戦争の<敗者>と決めつけられた。「今世紀末に日本の大部分が海没する」という有名なエドガー・ケイシーの大予言は、<白人の楽園>だったアトランチスを復活させたいというWASPの集合的無意識の願望を代弁したものだと解釈する人さえある。なにしろ、世界のどの国も日本という国がなくなるといいと思っているというのだから。

日本滅亡とまで高唱する気はないが、天皇制や元号が無事に二一世紀を生き延びられるとはとても思えない。今の体制のままどこまでやっていけるか。近い将来屈辱を被らずに済むか心許ない限りである。もっとも、いささか<非国民>的な私は、日本滅亡の大予言成就の暁のイース浄土再訪問を夢見ていないとも言えないのだが。

・・・次号更新【「家畜人ヤプー完結版(ミリオン出版)」より---沼正三】に続く

−−−

−−−