『家畜人ヤプー』:幻冬舎(アウトロー文庫)

逆ユートピアの栄光と悲惨・・・12

屈従の増大と幸福の増大の短絡化---一般の価値観と理念の完全な転倒・倒錯のもとに、ジュネのいわゆる「糞を黄金に変える術」は、イース世界においても、みごとな成功を収めている。と、書いてきて、私はここで、ヘルベルト・マルクーゼの名前を想起せずにはいられない。

動物に見られる単純な生殖活動は自然そのものであるが、エロティシズムとは、このような自然に対する挑戦である。そして、それは、動物的自然から脱け出たものとしての人間独自の領域(労働・生産)をも侵犯しようとする。社会生活の基盤である労働や生産に対してネガティヴに機能する時、エロティシズムは必然的に反社会性とならざるを得ない。この対立を、フロイトは、「快楽原則」と「現実原則」の確執として捉えた。現代の文明は、言うまでもなく「現実原則」の優位性の上に築かれたものであって、人間生活の価値基準を、自動車、テレビセット、トラクター等によって規定し、物質的生産性を神聖な理想として掲げている点では、資本家もクレムリンの主も同断である。

・・・次号更新【逆ユートピアの栄光と悲惨:家畜人ヤプー解説(前田宗男)より】に続く

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