プロデュース(康芳夫)
ノストラダムス(原作)
ヒトラー(演出)
川尻徹(著)精神科医 川尻徹
官邸地下壕で行なわれた”偽りの結婚式”(2)
「もちろん『けもの』の役割は、実体のヒトラーが演じるのではない。これは、影武者が演じればいい。そして、エバ・ブラウンは『聖なる乙女』でなければならないのだ」
「聖なる乙女とは・・・・・・?」
「ああ。これはノストラダムスの予言にあるのだ。第四章の二四番だな」
川尻博士は、ノストラダムスの予言詩を全部暗記しているのかもしれない。
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地下で、聖なる婦人のいつわりの声を聞き
人間の情熱が神的なものによって輝くのを見る
地は彼ら自身の血で染められ
聖なる時は、邪悪さによって破壊されるだろう
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「これは何のことだと思うかね?」
中田にはピンとくるものがあった。
「”地下で”−−−というと、総統官邸の地下壕を連想しますね」
「そうだ。これは一九四五年四月二八日の真夜中、地下壕で行なわれたヒトラーとエバ・ブラウンの結婚のことを言っている詩なのだ。しかし、この結婚は偽りの結婚だった。というのは、結婚の相手は実体ではなく、ダブルのほうだったからだ。だから、エバ・ブラウンの誓いの声は、”みせかけ”だったわけだ。ノストラダムスは”聖なる女性”と呼ばれる存在がいて、偽装結婚がなされることを予言したわけだな」
「そうすると、エバ・ブラウンは、単なる愛人でなく、『ヨハネの黙示録』に描かれた象徴的な役割を演じるために起用された、俳優のような存在だったわけですか」
・・・・・・・・・次号更新【官邸地下壕で行なわれた”偽りの結婚式”(3)】に続く