虚人魁人 康芳夫 国際暗黒プロデューサーの自伝/康芳夫(著)より
二つの祖国(3)
私の父も戦後日本の重要戦犯を収容した「巣鴨プリズン」に収監された。中華民国政府からの依頼による保護抑留、つまり委託抑留というのが正式な収監理山だ。A級戦犯の東条英機とか、岸信介、笹川良一などと一緒に収監されたわけだ。私が母とともに面会に行くと、金網が張ってある面会場所に連れていかれる。横にMP、つまり進駐軍の憲兵とその通訳がぶっきらぼうに立っている。私たちの会話を逐一、通訳して報告しているのだ。面会は週一回、約一五分間だけ許された。
母はなぜか下を向いて話していたのを憶えている。いまでも、その金網の雰囲気だとか、何ともいえない陰鬱な空気だとか、その時の嫌悪感が私の頭の中から離れない。現在、サンシャインビルに生まれ変わった巣鴨プリズンだが、いまでも近くを通りがかると当時の暗くて重い雰囲気がなぜか私の中によみがえってしまう。それほど、強烈な思い出なのかもしれない。
父はその後、上海軍事法廷が開かれた香港に移送され、そこで判決を受けた。大使館員は全員銃殺された。しかし、父の判決は無罪だった。従事していたコックと医者だけは無罪の判決を受けたのだ。中立の立場をとっていた、というのがその判決理由だった。この判決文は私たち家族の記念としていまでも大事にしまってある。
・・・次号更新【『虚人魁人 康芳夫 国際暗黒プロデューサーの自伝』 official HP ヴァージョン】に続く
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虎と空手武道家の死闘ショー:東京中日新聞(昭和52年1月6日 木曜日)
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