虚人魁人 康芳夫 国際暗黒プロデューサーの自伝/康芳夫(著)より

虚人魁人 康芳夫 国際暗黒プロデューサーの自伝/康芳夫(著)より

高級クラブで豪遊(2)

稼いだ金も、思うぞんぶん使った。ほとんど、毎晩のように新宿や銀座の高級クラブに繰りだし豪遊した。学生ながら、当時、東北電力会長で吉田茂の政治顧問だった白洲次郎やまだ新進代議士だった宮沢喜一、そして文化人では小林秀雄、大佛次郎、吉川英治、河上徹太郎らが常連の銀座の高級クラブ「エスポワール」などにもひんぱんに通った。ママの息子が親友で、本来なら若造は入店拒否なのだが、親友ということでうまくすりぬけることができたのだ。新宿では、ふつう一般人は絶対入れない会員制高級クラブの「キャロット」などで堂々と常連としてグラスを傾けていたのだ。この「キャロット」は二幸の裏にあり、椅子のデザインが岡本太郎、内装が丹下健三、生け花が勅使河原蒼風という当時としては超高級クラブで、客筋も最高の文化人が集まっていた。この頃は、岸内閣で戦後の復興から六〇年代の高度成長へ向かう時代だった。焼け野原だった新宿にも少しずつ高級クラブができはじめていた。そんな時代の息吹みたいなものを私は美女たちに囲まれながら肌で感じていた。

・・・次号更新【『虚人魁人 康芳夫 国際暗黒プロデューサーの自伝』 official HP ヴァージョン】に続く

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康さんの一面

唐十郎

或る会社のパーティで康さんを見た。

80周年の創立を祝う会社のパーティの、華やかな会場には、千人を超す客が詰めかけ、その宴の祝いを述べるために、社長の前に二百人程の取り引き先が、一列に並んでいた。

社長が一人一人と握手する様は、ヴィデオカメラに撮られ、それは、会場の正面壁に、現場中継の如く、大きく映しだされた。二百人の列は会場を遮断した形で、遠目から見ても、お、あいつも並んでいると見てとれる。その列は社長の自己顕示欲の犠牲者だった。

が、である。その列が突然、二股に別れた。

銀座をイノシシと闊歩する「謎の怪人」:康さんの一面(唐十郎)

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