沼正三のプロペラ航空機:劇的な人生こそ真実(萩原朔美:著)

劇的な人生こそ真実―私が逢った昭和の異才たち

沼正三のプロペラ航空機・・・3

たとえば、「犬神」では、

姑 ちっとも、遊んでやしないじゃないか。

月雄 婆ちゃんにはわからないだけさ。

姑 じゃあ、一体何して遊んでるって言うつもりだね。

月雄 かくれんぼ。

姑 え?

月雄 かくれんぼだよ。

姑 ・・・・・・

月雄 ぼくは鬼なんだ。

ぼくが行くとみんなかくれる、ぼくは探す、けれどみんなはなかなか見つからない。

みんないなくなったあと、夕暮れの町を、ぼくはたった一つの桃を両手であたためながら、みんなのかくれた方へやってゆく、「もういいかい」「もういいかい」って心の中で呼びながら。

姑 だけど、おまえにゃ、みんなを見つけることなんか出来やしないさ。

月雄 (やさしく)いいんだよ。

ぼくは焦ってやしない。十年たってからだって、二十年たってからだって、いつかはみんなを見つけ出すさ。遊びは長いほど、たのしみも長いんだからね、お婆ちゃん。

というセリフがある。

・・・次号更新【沼正三のプロペラ航空機:劇的な人生こそ真実(萩原朔美:著)より】に続く