アミン大統領(5):食人大統領 VS. 猪木
イスラム教徒で東アフリカヘビー級チャンピオンの彼が、イスラム教徒としても、またボクサーとしても尊敬し敬愛するモハメッド・アリの前で試合ができるなどとは、夢にも思っていなかっただろう。一国の大統領という立場を忘れても試合に臨みたいのが本音なのだ。
私はさっそく、二回、ロンドン経由でウガンダに飛んだ。当時、ウガンダにはシャツ工場や缶詰工場など日本企業も二、三社進出していた。首都カンパラの空港につくと、国賓クラスの出迎えが勢ぞろいしていた。まさに深紅の厚い絨毯が、タラップを降りると敷きつめてある。護衛の車を引きつれて、市内のまん中にあるサッカー場に案内された私は「ここで開催する」と側近から言われた。そしてその後、ボディーガードに囲まれて宮殿に向かった。宮殿にある大統領執務室で会ったアミンは何ともいえない不思議な魔力を感じる男だった。イギリスへの留学経験があり流暢な英語もしゃべるインテリなのだが、体全体からかもしだす野生というか何とも独特の動物的な野蛮性を感じさせる人物だった。握手した手も分厚く力もすごい。人相も見るからに凶暴な顔をしているのだ。これはある種、「凶暴」などという領域を超えた、不思議なカリスマ性なのかもしれない。とにかく不気味な魔性を漂わせていた。
彼は、即座に契約書にサインした。そして、その夜宮殿でディナーに招待されたが、そこで出た料理が何ともまずかった。ジャガイモやトウモロコシも食えたものではない。肉も変な味がして、吐きだしそうだった。立派な宮殿の天井を見あげながら、私はこのくそまずい料理を無理矢理のどに押しこんでいた。
・・・アミン大統領:続く